マツノート

読書が好きな理系大学院生による書評ブログです.

落日燃ゆ ー 城山三郎

城山三郎著「落日燃ゆ」 

この作品は,城山氏のもっとも有名な作品の一つではないでしょうか.
外交官であり,戦時中には総理や外務大臣を務め,そして戦後の極東国際軍事裁判で文官でただ一人処刑された広田弘毅を描いた作品です.
 
広田は決してエリートコースを走ってきたわけではないですが,外交官時代にソ連との国交回復に貢献するなど着実に実績を上げて,遂に閣僚となりました.彼が外相や首相を務めたときは日本が戦争へと突入していく時期と重なります.広田は日本が戦争へと突き進んでいくのを食い止めることに奔走することとなります.
 
作品中では,広田の心情が描写されることはほとんどないです.しかし,軍部は統帥権を振りかざし暴走していき,世論は戦争に傾いていく中で,なんとか開戦を回避しようとする広田の苦悩は想像に難くありません.停戦・和平が絶望的な状況になっても,なお諦めず知恵を絞り,粘り強く行動する姿には胸に迫るものがありました.
 
広田弘毅の生き様に深い感銘を受けるとともに,再読したいと思わせる作品です.
城山作品の入門として,いかがでしょうか.
私は,城山氏の作品の中でも,特にこの「落日燃ゆ」と村上水軍のリーダーである村上武吉を描いた「秀吉と武吉」.そして,幕末の尾張藩主・徳川慶勝が主人公の「冬の派閥」の三作が好きです.三作とも主人公が時代の荒波に揉まれながらも粘り強く努力を重ね,自分の信念を貫こうとする姿に心を打たれるからです.
城山氏がテーマとして取り上げることを好む「気骨のある人」とは、まさに彼らのことだと私は思います.
 
落日燃ゆ (新潮文庫)

落日燃ゆ (新潮文庫)

 

 

秀吉と武吉―目を上げれば海 (新潮文庫)

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冬の派閥 (新潮文庫)

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